対談:保育経営を考える前に、まずは保育業界を知ろう。ビジネスとしてではなく、“学ぶ”気持ちで。

今や労働力不足からくる保育所ニーズは全ての法人にある。
それでも、保育所開設や運営に難航するのはなぜだろう。

今回は
保育事業コンサルティングに精通した株式会社船井総合研究所チームリーダーの大嶽広展さんと
保育事業を手掛ける株式会社パワフルケア代表取締役黒田命人さんに
業界ならではの仕事について話をうかがった。

そこには、お二人らしい保育との距離感と、ビジネスにとどまらない保育の魅力があった。

この保育新制度、いろんな企業の人材定着率改善の決め手となるパワーを秘めている

黒田

子ども・子育て支援新制度が導入されたばかりですが、もっとも気になるのが、今後、病院・企業などにどのように広がり保育園経営にどう影響するのかということです。

保育事業コンサルの専門家として、どのようにご覧になっていますか?

大嶽

平成27年度の時点で、事業所内保育については全国で150件の申請件数があるんですね。これは、昨年の段階での申請ですから、ここから2、3年は、院内保育も含めて、200件、300件と増えていき、新制度の認知度に伴って、それ以上の件数になるのではないかと思います。とりわけ人口の多い都市部などについてはなおさらでしょう。

黒田

院内保育に限って言えば、これから病院の合併も増えていきますから、建て替えやリニューアルに伴って従業員数が増えるのなど、医療業界の変化に伴って、院内保育所のニーズも上がっていくのでは? というのが私の予測です。

大嶽

おっしゃるとおりです。もともと事業所内保育、院内保育をやっていたところが新制度へ切り替わっているのですから増えていくのは、やはり病院内保育です。全体の6割が事業所内保育の中でも病院なので、ニーズは着実に増えていくでしょうね。

看護師、ドクター、それ以外の従事者の方の人材の不足が慢性的に続いていますから、定着率改善のためにも、院内保育の充実に取り組む病院は増えていきます。

黒田

新制度を活用することによって、事業所内保育事業に収益が出るとまではいかないけれども、予算が確保できれば、今まで院内保育所を持っていなかった病院も、「この機会に……」という展開になるだろうなと思うのですが、コンサルタントとしての実感はいかがでしょうか?

大嶽

新規開設のコンサルティングのニーズというのを試算してみたのですが、保育園の開設の増加がようやく落ち着くのは、だいたい平成30年から31年ぐらいです。それ以降は、運用のコンサルティングが増えていきます。本格化するのは、開設から3年、5年後……10年以内にはそういう状況になるんじゃないかと思います。

ビジネスと“保育業界ならではのお付き合い”のバランスを、臨機応変にとっていくことがカギになる。

黒田

新制度の導入に伴って、いろんな相談を受けていらっしゃることと思います。院内保育に特化している当社ですが、ほかの業界のニーズにとても興味があります(笑)。

大嶽

意外と言えば、結婚相談所でしょうか。結婚相談所の会社は出会いから結婚までサポートするだけでなく、新しい家族という次のライフステージをフォローするために保育園事業を立ち上げるという動きもあります。

ほかには、人材派遣会社が、これからの女性の活躍推進を見据えて、登録スタッフさんを抱えるために保育園を作りたいとか、いろんなケースがあります。今の自分たちの事業と当然つながっていったり、事業との相乗効果に期待していらっしゃるのではないかと思います。黒田さんも、いろんなシーンをご覧になっているのではありませんか?

黒田

看護師の紹介会社から院内保育所開設のご相談を受けたことがあります。その会社の方が、「院内保育所があれば、看護師さんの求人もやりやすくなるのでは?」と病院に提案したところ確かな手応えがあったので、当社に声をかけてくださいました。

ビジネスとは直接関係ないケースで申し訳ないのですが(笑)、既存のお客様との関わりの中でも、目から鱗というか、想定外というか、そんな“ご依頼”をいただくこともあります。お付き合いいただいている保育園を訪問したとき、保育士さんから「今、北海道のクマさんに子どもたちが手紙を書いているんですが、それを届けてくれる郵便屋さんになってもらえませんか?」と頼まれまして……。

大嶽

どうしました?

黒田

クラスの中に入って、「どうもー、郵便屋さんです。みんなの手紙を北海道まで届けるからね!」と、手紙を集めて帰りました。

大嶽

私にも経験がありますよ。ある小さな保育園の女性経営者にコンサルティングをしていたのですが、その最中に、その方の小さなお嬢さんを散歩に連れて行ってほしい、と。1時間ほどですか、一緒に手をつないで散歩しました。

これは別のお客様なのですが、園の夏祭りとかのイベントに参加したり、模擬店で焼きソバを焼いたり……。めったにできない経験ですから、実は楽しんでいます(笑)。

黒田

オーナーのお子さんを託されたり、食べ物を扱ったりということは、それだけご信頼いただいている証拠でしょうね。

大嶽

確かに、信頼してくださっているから、まかせていただけるということもありますね。コンサルタントという仕事は、お客様が求める成果に対して、ちゃんとそこを達成することがミッションです。お客様が求めるものはさまざまで、純粋に業績を上げたいというのもあれば、人材を育てたいというものもあります。

こに対して、どれだけきちんと成果をコミットするかというところが一番大事なポイントですね。そこがないと信頼関係も出来ませんし、仕事を継続できません。

黒田

求められていることは何かということを掴むのは難しいですね。

大嶽

掴むまでは、お客様も半信半疑ですからね。そのためにも、まずは成果をしっかりと出して、お客様との信頼関係ができれば、焼きそばを焼けるわけですね(笑)。

最後に、お二人に聞いてみた。「保育事業って、何が大事だと思いますか?」

黒田

基本として忘れていけないのは、先ほど大嶽さんもおっしゃった“ミッション”ですね。病院内保育所のご契約先といったら病院さんです。病院さんは看護師、従業員の定着というのを目的にしているわけですから、そこからブレないことがいちばん大事です。

エンドユーザーであるおかあさんの「目指すところ・してほしいところ」と病院さんの「してほしいところ・求めるところ」が一緒だったらいいのですが、若干ずれることもあります。そこでクライアントをまったく無視しておかあさんのほうに寄っていってはダメだし……。やぱり定着率確保というのが大前提であることを、ブレずに持っておくことが基本中の基本だと思います。

大嶽

お客様が求めていることを的確に捉えるというので、ソリューションはほぼ決まってきます。たとえば自分の収入を上げたいという方、地域に貢献したいという方、目の前のお客様に喜んでほしいという方、自分の社員が育つのを楽しみにしていらっしゃる方など、いろんなケースがあります。

「自分は地域に貢献したいんだ」と言いつつも、お話を聞いていくと、収入UPがご希望だったり……。それであれば、どういう流れでやっていくか、みたいなことを考えていくのが私の仕事です。

黒田

うちもそうですね。クライアントファーストと言いましたけれど、病院さんが保護者のことを全然考えていない案を出してきたとか、視点が違うことをやってくれとかおっしゃりだすと、「やってやれないことはないですけど、それは従業員定着にはつながりませんよ」という感じで説得する、そういうことをしなくてはならないですね。

プロとしての視点でソリューションを提案し、結果を出したときのお客様の「ありがとう」という言葉こそ、この仕事の醍醐味だと思います。

大嶽

やっぱり感謝ですよね。むしろ、そういうお言葉をいただくために仕事しているみたいな感覚があります。相手が求めることに対して、それ以上のものが提供できれば、そこが感謝になるわけですね。

期待値がものすごく高くて実感はそうでもなかったというのは、不満につながります。逆に、期待値以上に実感が高くなり、思っていることに対して120%、150%、ないしは200%と上がれば上がるほど感謝の度合は上がります。

黒田

仕事を通じて相手に感謝されること以上の「よかった!」と思う瞬間なんてあるのかと、私も思います。

アプローチしてきたご担当者様に、「院内保育所の運営を頼む」と言われたときは、そこまで任せてくれた人のために頑張ろう!という気持が生まれます。その方が、昇進や成功されたときは、わがこと以上にうれしいですね。

当社への評価については、「パワフルケアの保育士は他とは違いますね」と言われたときは胸が熱くなります。私とか会社とかじゃなくて、保育士へのおほめの言葉をいただいたときは、やってきてよかった、自分は間違ってなかったと思います。

相手が望んでいることを察知して、それ以上のことをやっていくということをやらないと、なかなか本音で「ありがとう」という言葉をいただけるわけではありませんよね。それが保育業界の特色であり、また、そこに携わる者の醍醐味ではないでしょうか。

まだまだ語り足りませんが、また次の機会に、お互いの成果を持ち寄りたいと思います。

本日はどうもありがとうございました。

保育事業から何を得ようとするのかは、開設者次第。

あれもこれもと追うよりも、まずは保育業界に一歩踏み込んでみよう。

そこにどんな景色が広がっているのか、どんな新しい出会いが待っているのか。

学びから成長を求めるような気持ちで―。

プロフィール

大嶽広展(おおたけ ひろのぶ)

栃木県小山市出身。2004年に船井総研に入社し、2005年に「教育が地域を活性化する」という理念から、学習塾、幼児教室、カルチャースクール、幼稚園、専門学校などを研究・調査・取材する中で、縁あって保育業界と出会う。その保育の社会的意義に魅せられ、それから3年間、全国約100法人の保育事業者の取材、ヒアリング、さらに保育スタッフとして保育園での現場の仕事などを通し、独自の経営ノウハウを確立。2008年に船井総研で初めて「保育園・幼稚園経営コンサルティングチーム」を発足する。

それ以降、保育園の新規開設支援を得意分野にこれまで約300を超える法人、企業のコンサルティング、経営相談を経験。

2011年には東日本大震災後に経済産業省の委託事業として「全国保育園防災マニュアル」の作成にも統括責任者として携わる。

著書に「保育サービス業界の動向とカラクリがよくわかる本」があり、2015年には同著の改訂版も出版予定。

黒田命人(くろだ みこと)

1979年生まれ。大学を中退後、母親が起業した保育サービス会社「パワフルケア」にアルバイトを経て入社。保育の現場を手探りで運営しながら子ども・大人を問わず人の成長や組織の成長に魅力を感じ、事業承継を決意。病院内保育所運営請負サービスを通じて個人の自己実現とその組織の拡大を支援している。

現在、株式会社パワフルケア 代表取締役社長